『エラントリス 鎖された都の物語』 ブラントン・サンダースン

かなり面白かった! ハヤカワのファンタジーとしては久々の当たりです。
異世界ファンタジーのパターンなんて出尽くしていると言われますけど、工夫次第でいくらでも目新しいのを作れるという証明みたいな作品。

物語の舞台はエラントリスという魔法都市と、その側にある新興国アレロン王国。
かつて、エラントリスの住人は身体から光を放つほど美しく、魔法を使って奇跡を行い、普通の人々からは神のように崇められていました。
エラントリスの住人になる方法は唯一つ、≪変容≫とい奇跡的現象が起きること。
普通の人でも≪変容≫が起こるといきなり天使のようなエラントリス人の姿になる、というわけです。

ところが、十年前に≪レオド≫という大災害が起きてから、エラントリスは崩壊し廃都と化しました。≪変容≫もその性質を変えてしまい、≪レオド≫後に≪変容≫に見舞われた人間は神どころか皮膚の崩れた半死者、いわばゾンビのような存在に変わってしまいます。

物語はアレロン王国の若き王子ラオデンが≪変容≫に見舞われて半死者となり、王宮を追放されるところから始まります。
未来の指導者を失い政情が不安定になったアレロン王国を見透かしたように、覇権国家デレス教国から先兵として派遣されてくる紅鎧の大主教ホラゼン。
アレロン王国を守るため、ラオデンの許婚サレーネ王女がホラゼンと対決することになるわけですが・・・。

上下二巻構成ですが、とにかく最初から最後まで話が二転、三転して目が離せません。
登場人物全員がそれぞれの思惑を持って行動しているので、本当に一筋縄ではいかない。
敵役のホラゼンも単なる侵略者ではなく、自らの信念に従って行動している武人なので憎めません。むしろ後半は味方側以上に見せ場があります。最終決戦時の『わたしのすることに、見せ掛けなど一つもない!』はカッコよすぎる。

このホラゼンみたいな十字軍・テンプルナイツ的な宗教的信念を持った騎士は、宗教嫌いな日本人作家にはなかなか描けないだろうなと思います。
神を真剣に信じて行動する、とういう行為を日本人はとかく馬鹿にしちゃいますから。
著者は末日聖人派の信徒だということで、なるほどなあと思いました。

この作品は本当に言いたいことが盛りだくさんで全部書ききれないです。 ファンタジー世界には珍しい経済国家アレロン王国とか(元はエラントリスの魔法品を売る商人ギルド。国王は元・商工会議所の議長)。
最悪の運命に見舞われながらも諦めることなく半死者たちを統率し、廃都からアレロン王国をうかがうラオデン王子と、その右腕・晴耕雨読のガラドン。
そしてもちろん魔法都市エラントリスそのものにも異世界ファンタジーの醍醐味がたっぷり詰まっています。

ライトノベルもよいのですが、面白い異世界ファンタジーはライトじゃない重厚さがないとなあ、と思う今日この頃です。
(06/12/17)
エラントリス 鎖された都の物語〈上〉 (ハヤカワ文庫FT)
エラントリス 鎖された都の物語〈上〉 (ハヤカワ文庫FT)

エラントリス 鎖された都の物語〈下〉 (ハヤカワ文庫FT)
エラントリス 鎖された都の物語〈下〉 (ハヤカワ文庫FT)

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