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『見えない都市』 イタロ・カルヴィーノ

巡察使マルコ・ポーロが皇帝フビライ・ハンに自分の見てきた不思議な都市について語る、という形式の小説。ラノベファンの人には『キノの旅』を想像してもらうと分かりやすいかと。

さすがSFファンタジー『レ・コスミコミケ』を書いたカルヴィーノの作品だけあって、マルコ・ポーロが中世の言葉で現代都市や未来都市のことまで語っているように見えるところが面白いです。
月の運行軌道にまで達した尖塔がそびえ立つ都市ララージュの描写は実は軌道エレベーターの描写なのではないかと思えますし。

あと、マルコ・ポーロが大地図帳を見ながら想像する事柄もSF的でしびれてきます。

“それからさらに千年後には、やがてはついに黄色と黒と赤の諸人種を生き残った白人たちの後裔ともども、偉大なる汗の帝国よりもなお広大な帝国に融合させるにいたる三百年もの長い攻城戦ののち、太平洋の首都として栄えるようになるのかもしれぬ、と”(P178)

※ ※ ※

マルコ・ポーロ好きなんですよ。陳舜臣『小説マルコ・ポーロ』の秘密工作員的に描写されたマルコ・ポーロの魅力にやられて好きになったところがあります。光栄の某シミュレーションゲームでも全世界トップクラスの策謀能力を持っていたりしますし。

マルコ・ポーロは元朝側に記録が少ないことから、実は中国には行っていない(ホラ吹き)とか実在の人物ではないとまで言われたりしますが、記録に残っている数少ない仕事が最重要クラスのものであるがゆえに、一種の懐刀的な謀臣であったのではないかと想像されるところなど、日本でいうと山本勘助と似たような扱いをされているフシがあります。

『見えない都市』はこの魅力的かつミステリアスな人物が語るという点で、私にとっては単なる文学的評価だけではなく『キノの旅』と同じくらいキャラクターの魅力にも溢れた小説だといえます。
(2008/08/06)

見えない都市 (河出文庫)
見えない都市 (河出文庫)

『黒い玉』 トーマス・オーウェン

『青い蛇』とセットになっている短編集。こちらに収録されている短編ははっきりした傾向があって、生者が知らずに死者と交わってしまう、というタイプの怪談話が多いです。とはいえ、この作者の持ち味である物語の定型を外したような奇妙な展開もちゃんと散見されます。

解説ではユーモアのある話とされている『売り別荘』が、私にはかなり怖かったのですが、、、
<売り別荘>の看板を掲げて客を迎えておきながら、「この別荘は売り物では な い 」という矛盾する書き置きを残して別荘の主人がいなくなってしまうのは意味不明すぎて怖いと思うのですよ。

表題作の『黒い玉』も主人公がなぜあのような災難に見舞われるのか分からない点が不気味です。
(2008/08/06)

黒い玉 (創元推理文庫)
黒い玉 (創元推理文庫)

『鼻』 曽根圭介

第14回日本ホラー小説大賞・短編賞受賞作。
昔の日本SFを思い起こさせる、という感想がよく見られますが、確かに筒井康隆の昔の短編っぽい作品で、あんまりホラーという感じじゃありませんでした。
とはいえ、読んでいて愉しい作品であることは間違いないので〝短編賞〟に相応しいともいえます(これがもし〝大賞〟だったら不満を感じたかも)。

収録作の一つ『暴落』は個人の評価が株式取引に使われるようになったら、というアイデアの作品で、なんだかドクトロウの『マジック・キングダムで落ちぶれて』に似ているなあと思っていたら、見事に解説で大森望氏が指摘しておりました。
若干違いをあげてみると、『マジック・キングダム~』のウッフィー制は取引というよりはpixivの閲覧者数+点数評価に近くて、ある人が実行したあらゆる企画への評価がそのまま財力になる、というポジティブ思想の制度ですが、『暴落』は完全に個人評価を商取引しており、それゆえに作中で主人公が見舞われたような酷い不正・不公平が生じ易くなっています。このあたりが微妙にホラー寄りなんですね。

他の収録作も含めて非常に完成度の高い作品ばかりなのですが、実のところあまりにもソツがなくて「この作者ならでは」の個性的な部分があまり感じられなかったという印象もあります。次にどんなタイプの小説を書くのか気になる作家です。
 (2008/05/06)

鼻 角川ホラー文庫
鼻 角川ホラー文庫

『青い蛇 十六の不気味な物語』 トーマス・オーウェン

確かにホラーとはちょっと違う〝不気味な物語〟が収録された作品集。何が不気味かというと、物語の展開が定型を大幅に外れて不自然だったり、結末に納得できる理由が無かったりする所。

例えば表題作『青い蛇』は……。
額縁の中の絵とガラスの隙間になぜか青い蛇が入り込んで動けなくなっていて、危ないからガラス越しにピストルで撃って殺してしまおうと父に言う「私」。
父は同意してピストルをとってくるのですが、部屋に入ったとたんに絵に向かって遠距離から銃を乱射するので「私」はとっさに伏せ、命の危険を感じながら父の行為に激怒します。
蛇は結局ガラスの隙間から逃げていってしまう……。

『青い蛇』はこれだけの話なのですが、父の行動の理由や青い蛇の意味について全く語られないのでどうもすっきりしないものを感じてしまいます。この不安感が著者の作品の特徴なのかなと思いました。計算された不自然さ、というべきでしょうか。

展開が不自然という点では、吸血鬼譚のようなのに何かがおかしい『ベルンカステルの墓場で』も印象的でした。
(2008/04/06)

青い蛇―十六の不気味な物語 (創元推理文庫)
青い蛇―十六の不気味な物語 (創元推理文庫)

『異時間の色彩』 マイクル・シェイ

キャンプ場がにぎわう自然豊かな湖に出現した、水面を這う奇怪な七色の色彩。それに気づいた老学者二人は、その正体を突き止めようとします。
そのうちに奇妙な病気が湖周辺で蔓延し、行方不明者も発生して……。

本作はラヴクラフトの『異次元の色彩』へのオマージュ作品なのですが、実際は『吸血鬼ドラキュラ』を髣髴とさせる怪物vs老人のバトル小説という印象が強いです。
クトゥルー物にありがちなグロテスクな過剰表現があまりなくスピード感のあるスマートな文章で、どちらかというと映像作品にした方が面白そうな感じがします。
人間が空から降りそそぐ最後のシーンなんかはかなり印象的な画が描けそうなんですが……。
(2008/03/09)

『隠し部屋を査察して』  エリック・マコーマック

地球規模の大地震の後、幅100m、深さ30mの謎の溝が出現し、通り道にあるものを全て消滅させながら時速1600kmの猛スピードで全世界を駆け巡っていくという大災害を描いた『刈り跡』をはじめ、奇想溢れる作品が収録された短編集。

短編『町の長い一日』に『わたしは外に出ると、くるぶしまで積もった蝶をかきわけて……』という表現があるので南米出身の作家なのかなと思っていたらスコットランド系の人でした。
ジャングルの呪術とか大量の虫とか新大陸とか奔放なセックスの風習だとか、南米っぽい印象を強く感じてしまったのですが……。

それはそれとして、表題作『隠し部屋を査察して』をはじめ、『窓辺のエックハート』『祭り』『町の長い一日』といった作品で〝もはや最終目的が何だったかも分からなくなっているのに、何らかの義務的行為を課せられている人〟が多く描写されているのが印象に残りました。

●隠し部屋に永遠に監禁されている囚人を、永遠に監視することを課せられた監視人。
●犬が疲労死するまで果てしなく犬に棒を投げ続ける機械。
●他人を演じるという祭り行事をやっているうちに、本当の自分に戻ることができなくなった人。
●ある家に死体があるという報告を受けながらその家の場所が分からず、さらに第一発見者が死んでしまい、発見者が見た死体とはなんだったのかという謎を解き続ける刑事。
●一人の子供に対する児童虐待が無関係の人まで巻き込む暗殺戦争にまで発展した家族。
●主義にとらわれない究極の詩を追い求めた末に、無政府主義テロリストの人間爆弾になってしまった詩人。
(2007/12/01)

隠し部屋を査察して (創元推理文庫)
隠し部屋を査察して (創元推理文庫)

『ずっとお城で暮らしてる』 シャーリィ・ジャクスン

ある事件のために一家のほとんどを殺され、古い屋敷に完全に引きこもって暮らす生き残りの姉妹と伯父の物話。
主人公は姉妹の妹・18歳のメアリ・キャサリン、通称メリキャットです(なんとなくネコっぽい名前)。

物語はメリキャットの一人称で進むのですが、彼女の喋り方や考え方が18歳にしてはかなり幼いのがまず気にかかります。読み進めていくうちに、どうもメリキャットの精神年齢が家族が惨殺された時の12歳のままで止まっているらしいことが分かるのですが……。

こういう異常な心理の持ち主が一人称で語る場合、登場人物が被害妄想を語りだすと、読者は「彼/彼女は被害妄想を持っている」と認識して(作中世界の)現実とのズレに恐怖したりするわけですが、本作に関してはメリキャットの被害妄想が読者にも〝妄想だと認識できない〟という、恐るべきワナが仕掛けてあります。つまり、姉妹の周囲の人物が本当に悪意を持っているように感じられるわけです。

村人たちはメリキャットが本当に死んでしまえばいいと思っていそうだし、突然やってくる従兄チャールズは財産目当てで姉・コンスタンツに言い寄っているようにしか見えない。

精神の壊れてしまった娘に感情移入させられるという、これまでにない読書体験が得られる作品です。
(2007/11/08)

ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)
ずっとお城で暮らしてる (創元推理文庫)

『図書室のドラゴン』 マイクル・カンデル

エンデの『果てしない物語』(『ネバーエンディング・ストーリー』の方が通りが良いかも)を、とことんダークサイドへパロディにした作品、といえばいいでしょうか。

魔法の図書室(マクガルヴィー・ランド)に転移する方法を見つけたシャーマン少年。その図書室に本を持ち込むと、例のごとく、本の世界に入り込み登場人物になることができるわけです。

現実世界では根暗でイマイチぱっとしないシャーマンも、本の世界ではドラゴンと戦う騎士になったり、超能力者となって合衆国の平和を脅かす悪鬼と闘ったり、はたまた遠い銀河の植民星で活躍する司令官になったりと、普段抑圧されている自らの欲望を発散させます。

と、ここまでは『果てしない物語』のバスチアン少年と同じなのですが、本作のシャーマンは欲望にまかせて、魔法の図書室に『情欲の仔猫たち』というエロ小説を持ち込んでしまいます。
この行為がきっかけとなって、他の本の世界にもエロチックな猫女「時間魔女」が出現するようになり、彼女たちの暗躍?により、あらゆる物語世界が酷いバッドエンドへと収束していきます。

シャーマンはこの危機をどう乗り越えるのか?

単純に、様々なファンタジーの類型のパロディとして見てもかなり面白い作品ですが(中世ではなく、わざと現代都市を舞台にしているドラゴンスレイヤーの話は皮肉が効いていて大好き)、『果てしない物語』とはまた別の形で、空想世界から現実に戻ることを選択する少年の姿が示されていて印象深いです。

(2007/09/16)

『川を覆う闇』 桐生祐狩

不浄の神に目をつけられた街が、汚物塗れの〝聖地〟に変えられてしまう様を描いたお話。

桐生氏の作品は「ごく個人的な怪談かと思っていたら、実は全世界が怪奇現象に見舞われていた」という、伊藤潤二の漫画を思い起こさせる展開が多くて結構好みです。

注目の汚物描写については、少々インフレ気味で作者の狙っていたナスティ・ホラーの効果が弱まっているんじゃないかと感じました。というか、私の大好きなジェフ・ヌーン『花粉戦争』とプロットが似ているせいで、どうしても比べてしまうのです。『花粉戦争』は花粉症の鼻水・唾液の描写のみにとことん拘っていたので異様に汚く感じたんですが、『川を覆う闇』はインフレしてグロというよりギャグになりかけているというか……。

実際のところ、この作品で一番不快感を覚えるのは汚物描写よりも、森志穂子や菊池氏の性格なんですよね。彼らの語ることって屁理屈というか、ただのワガママ……。

『夏の滴』もそうでしたが、桐生氏は不快なキャラを描かせたら天下一な人だと思います。
(2007/08/15)

川を覆う闇 角川ホラー文庫
川を覆う闇 角川ホラー文庫

『エレンディラ』 G・ガルシア=マルケス

二つの大作『百年の孤独』と『族長の秋』の間に挟まる形で発表された短編集らしいですが、そもそもガルシア=マルケスの作品を読むのは初めてだったり。これを先に読んでよかったものか。

気怠いラテンアメリカの雰囲気の漂う不気味なファンタジーが多数収録されています。『幽霊船の最後の航海』、『この世でいちばん美しい水死人』など、題名からして不穏なものが多いです。

私が一番気に入ったのはやっぱり短編集のタイトルにもなっている中篇『無垢なエレンディラと無情な祖母の信じがたい悲惨の物語』。
最初の場面、14歳のエレンディラが独りでお屋敷の家事と祖母の世話をこなしている場面が強く印象に残っています。私のイメージだとエレンディラってメイドさんなんですよね。「はい、お祖母ちゃん」「分かったわ、お祖母ちゃん」っていう返事の仕方がなんだか妙に萌えますし。

亜熱帯にある古いお屋敷。
中庭の水槽の側につながれている、痩せた駝鳥の世話をするメイドさん、という図がシュールというかひどく幻想的で、脳裏から離れません。
(2007/08/01)
エレンディラ (ちくま文庫)
エレンディラ (ちくま文庫)