表紙はメイドさん。
それはそれとして、裏表紙には『ユーモアSF』との文字があるんですが、実はあんまりユーモラスな話じゃないですね。読後感としては『ライ麦畑でつかまえて』に近い感じ。全体的に軽いけれど、どこか切ないノスタルジックな物語。
作品の舞台は不老不死と半永久的エネルギーが実現した<ビッチャン世界>と呼ばれる近未来。人間の脳にCPUが埋め込まれていて全人類がブロードバンドで繋がっていたり、脳記憶のバックアップ、ダウンロードなんていうことも当たり前に行われるポストなサイバーパンクの世界です。
物語ではそんな未来社会でディズニーワールドのマジックキングダムのスタッフとして働くことに生きがいを見出した主人公ジュールズとマジックキングダム生まれの恋人リル、そして親友のダンの三人を中心とした、ディズニーワールドを巡るごたごたの日々が描かれます。
世界観の壮大さと、あまりにもスケールの小さい日常とのギャップは確かに面白いんですが、その日常でジュールズが遭遇する出来事はかなり痛切です。ダンは読者の私にも魅力的で尊敬できそうな人物に見えるので、ジュールズがダンに対して感じる想いにいちいち共感してしまう。
そしてダンが正体を見せたときの戸惑いにも。
ラスト付近のジュールズの言葉―『許すよ』―が深いです。