『忌憶』小林泰三

最初に収録されている短編『奇憶』は逃避型ファンタジーのパロディというか奇形みたいな作品。

進学や就職に失敗して完全に引きこもり状態になった男が幼い頃の不可解な記憶を思い出して 「この世界は本当の世界じゃない」という確信(妄想?)を持ってしまう話です。
小林泰三の得意とする〝ゴミ屋敷〟描写や、奇怪な幻想世界の描写が魅力的な作品でした。ラストの一言も素晴らしい。

第二の月『ショゴス二号』とか『タンホイザーゲート』といった小ネタ的なネーミングがシビれます。
(2007/03/21)

忌憶 角川ホラー文庫

忌憶 角川ホラー文庫

『猫とともに去りぬ』ロダーリ

ファンタジー好きの人にとっては『ファンタジーの文法』の著者として知られているロダーリの作品集です。収録作は一般的なファンタジーというより、皮肉の効いた大人の童話といった感じの作品が多いです。イタリアを舞台としている話が多いのも特徴でしょうか。

一番面白かったのは『カルちゃん、カルロ、カルちゃん あるいは、赤ん坊の悪い癖を矯正するには……』という短編(それにしても題名長い)。ラファティ『カミロイ人の初等教育』の逆の話、といえばいいでしょうか。超天才、しかもテレパシーやテレキネシスまで使える赤ん坊が生まれてきて、それを気味悪く思った両親や周囲の大人が赤ん坊を徹底的に〝凡人〟に教育する話です。
教育制度の矛盾を皮肉たっぷりに衝いている話で、興味深く読まされました。
(2007/03/18)
猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)
猫とともに去りぬ (光文社古典新訳文庫)

『姉飼』遠藤徹

第10回日本ホラー小説大賞受賞作です。
なんというか、コレや『夏の滴』がOKで『バトル・ロワイアル』がNGというホラー大賞の倫理基準がイマイチ分かりませぬ。

表題作『姉飼』は串刺しにされた姉を昆虫を飼うように飼う話。そのまんまです。
でも、私が本当に面白くて不気味だと感じたのは、姉に対する残酷描写よりも〝蚊吸豚〟〝脂祭り〟といった奇妙な生物・風俗に関する描写でした。現実に存在しない生物をこんなに生々しく気持ち悪く描けるのはスゴイ才能だと思いました。最後に収録されている短編『妹の島』においても〝オニモンスズメバチ〟の壮絶な生態に寒気を感じましたし。

残酷恋愛ホラーもいいかもしれませんが、この作者にはぜひ生物モノのパニック小説を書いていただきたいです。
(07/02/21)

姉飼 (角川ホラー文庫)
姉飼 (角川ホラー文庫)

サイトをリニューアルしました。

実は去年の年末からちょくちょくと作り続けていたのですが、ようやくある程度形が出来上がったので、本日から公開します。

WordPressを導入したので、少しは「近頃」のサイトっぽい雰囲気になったかと、、、

基本的にはケモミミじゃない作品の感想を、時々こっちの方に書いていく予定です。

『パニックの手』 ジョナサン・キャロル

この中の『友と最良の人間』という短編、どこかで読んだ話だと思ったら、昔読んだ犬小説アンソロジー『幻想の犬たち』にも収録されていました。
『幻想の犬たち』の佐藤高子訳に比べると『友と最良の人間』の浅羽英子訳は病弱少女チリッチの喋り方がかなり子供っぽくなってます。

収録作を読んで気づいたのですが、ジョナサン・キャロルの作品は大人の女性より若い娘・少女をヒロインとして設定しているものが多いんですね。
病弱少女のでてくる『友と最良の人間』がそうですし、自殺した娘が掃除にやってくる『おやおや町』も。表題作『パニックの手』も最終的に主人公が相手に選ぶのは大人の女性ではなく少女です。

『パニックの手』はコンピュータゲームの話題をものすごく自然に扱っているところに物語以上に感動してしまいました(『パニックの手』とは作中に出てくるゲームのタイトル)。
ゲームの話題を自然に扱えるジャンルはライトノベルかSFくらいだろうと思っていたので、こういう使い方もあるんだなあと目から鱗が落ちた感じです。
(07/02/08)

パニックの手 (創元推理文庫)
パニックの手 (創元推理文庫)

『暁の女王と精霊の王の物語』 ネルヴァル

150年近く前に書かれた、シバの女王バルキスとソロモン王の幻想的な恋物語・・・と紹介されている作品ですが、実際読んでみるとかなり印象が違います。

この物語の真の主人公は天才建築家のアドニラムであることは間違いないですし、テーマは恋物語よりも、人類の智恵・技術の賛美に偏っているように思われます。
そのせいで、神を篤く敬い人の力の限界を諭すソロモン王は悪役扱いです。

アドニラムは神聖なイスラエル王国に仕える身でありながらバベルの塔に思いを馳せ、スフィンクスのような人獣の偶像に美を見出す、神をも敵にまわすような恐るべき技術者です。
現代ならマッドサイエンティストという役回りでしょうか。
常人を遥かに凌駕する能力ゆえにソロモン王から宮殿・寺院の建造を一手に任されていますが、アドニラムは神を讃える寺院を造るより、神の創造物を超えるモニュメントを造ることに夢中です。

そこへやってきたシバの女王バルキス。
初めこそソロモン王との逢引に応じるバルキスですが、神よりも芸術や知識そのものを愛する彼女は、次第にアドニラムに興味を惹かれていきます。
そしてアドニラムの手による驚異のモニュメント〝銅の海〟でついに二人は出会い、予想だにしない運命の歯車が廻り始めるのです。

古典に属するファンタジーですが、展開がスピーディで登場人物も魅力的なのであまり古さを感じさせません。
ソロモン王もアドニラム(ソロモン宮殿の建築者)も旧約聖書が元ネタですが、詳しい知識がなくても雰囲気で読めると思いますので海外ファンタジーの雰囲気が好きな人ならオススメな作品です。
(07/01/16)

暁の女王と精霊の王の物語 (角川文庫)
暁の女王と精霊の王の物語 (角川文庫)

『エラントリス 鎖された都の物語』 ブラントン・サンダースン

かなり面白かった! ハヤカワのファンタジーとしては久々の当たりです。
異世界ファンタジーのパターンなんて出尽くしていると言われますけど、工夫次第でいくらでも目新しいのを作れるという証明みたいな作品。

物語の舞台はエラントリスという魔法都市と、その側にある新興国アレロン王国。
かつて、エラントリスの住人は身体から光を放つほど美しく、魔法を使って奇跡を行い、普通の人々からは神のように崇められていました。
エラントリスの住人になる方法は唯一つ、≪変容≫とい奇跡的現象が起きること。
普通の人でも≪変容≫が起こるといきなり天使のようなエラントリス人の姿になる、というわけです。

ところが、十年前に≪レオド≫という大災害が起きてから、エラントリスは崩壊し廃都と化しました。≪変容≫もその性質を変えてしまい、≪レオド≫後に≪変容≫に見舞われた人間は神どころか皮膚の崩れた半死者、いわばゾンビのような存在に変わってしまいます。

物語はアレロン王国の若き王子ラオデンが≪変容≫に見舞われて半死者となり、王宮を追放されるところから始まります。
未来の指導者を失い政情が不安定になったアレロン王国を見透かしたように、覇権国家デレス教国から先兵として派遣されてくる紅鎧の大主教ホラゼン。
アレロン王国を守るため、ラオデンの許婚サレーネ王女がホラゼンと対決することになるわけですが・・・。

上下二巻構成ですが、とにかく最初から最後まで話が二転、三転して目が離せません。
登場人物全員がそれぞれの思惑を持って行動しているので、本当に一筋縄ではいかない。
敵役のホラゼンも単なる侵略者ではなく、自らの信念に従って行動している武人なので憎めません。むしろ後半は味方側以上に見せ場があります。最終決戦時の『わたしのすることに、見せ掛けなど一つもない!』はカッコよすぎる。

このホラゼンみたいな十字軍・テンプルナイツ的な宗教的信念を持った騎士は、宗教嫌いな日本人作家にはなかなか描けないだろうなと思います。
神を真剣に信じて行動する、とういう行為を日本人はとかく馬鹿にしちゃいますから。
著者は末日聖人派の信徒だということで、なるほどなあと思いました。

この作品は本当に言いたいことが盛りだくさんで全部書ききれないです。 ファンタジー世界には珍しい経済国家アレロン王国とか(元はエラントリスの魔法品を売る商人ギルド。国王は元・商工会議所の議長)。
最悪の運命に見舞われながらも諦めることなく半死者たちを統率し、廃都からアレロン王国をうかがうラオデン王子と、その右腕・晴耕雨読のガラドン。
そしてもちろん魔法都市エラントリスそのものにも異世界ファンタジーの醍醐味がたっぷり詰まっています。

ライトノベルもよいのですが、面白い異世界ファンタジーはライトじゃない重厚さがないとなあ、と思う今日この頃です。
(06/12/17)
エラントリス 鎖された都の物語〈上〉 (ハヤカワ文庫FT)
エラントリス 鎖された都の物語〈上〉 (ハヤカワ文庫FT)

エラントリス 鎖された都の物語〈下〉 (ハヤカワ文庫FT)
エラントリス 鎖された都の物語〈下〉 (ハヤカワ文庫FT)

『夜市』恒川光太郎

第12回日本ホラー小説大賞・大賞受賞作。

高校時代の同級生・祐司に夜市に行こうと誘われたいずみ。存在するはずの無い夜市では妖しい存在が様々な謎の品物を売っていました。怖くなったいずみは帰りたいと訴えるのですが、祐司は何かを探している様子。
祐司が夜市にやってきた真の目的は、子供の頃に〝野球の才能〟買うために売ってしまった弟を買い戻すことだったのです。

山尾悠子の幻想小説を思い浮かべてしまいました。雰囲気がなんとなく・・・。ただ、山尾悠子の作品よりも人間の温もりみたいなのが感じられます(というより山尾悠子の幻想世界では人間の醜い部分も冷静に提示されるからかもしれませんが)。

私はもっと恐ろしい、酷な結末になるのかと考えていたので、逆に物足りなく感じてしまいました。ホラー大賞ですから、残酷であるがゆえに本当に泣ける『D・ブリッジ・テープ』みたいなのを期待していて・・・。

ただ、ファンタジーとしては非常に良質な作品です。もうひとつの収録作『風の古道』も幻想的イメージに溢れていますし。
夜市 角川ホラー文庫
夜市 角川ホラー文庫

『夏の樹(フィオナヴァール・タペストリー)』 ガイ・ゲイブリエル・ケイ

『指輪物語』で有名なトールキンの遺作が発表されるそうですが、そんなことよりハヤカワさんにはガイ・ゲイブリエル・ケイ『フィオナヴァール・タペストリー』の続きをちゃんと刊行していただきたいのですがー。

『フィオナヴァール・タペストリー』の著者は実際にトールキンの遺稿整理を行っていた人。
本作は指輪物語・アーサー王物語・ケルト神話・異世界探訪・異世界転生・真世界とパラレルワールド・中世戦争から学園ファンタジーまで、ありとあらゆるファンタジーの要素を詰め込んだメガ級のファンタジーを予感させる作品なのですが日本語訳は序章(第一部)の『夏の樹』しか出ていない・・・。

物語はトロント大学で五人の学生が異世界に召喚(招待)されるところから始まり、光と闇の勢力の抗争に巻き込まれていくという、なんだかあらすじだけだとありがちなラノベみたいな設定ですが、かつてないスケールのエピック・ファンタジーなのです。

現実世界から召喚された五人は、重要人物ですがヒロイックな感じではなく、あくまで壮大な異世界叙事詩の一端を担うだけ、という所が良い感じ。

なんとか日本語訳で続きがでて欲しいと願う今日この頃。どうしても駄目だったら原書で読むしかないのかなあ。
(06/09/21)

『宿命の交わる城』イタロ・カルヴィーノ

タロットカード(大アルカナとトランプの元である小アルカナ)を引いていって、引いたカードの絵柄を元に物語の展開を考えていくという、とてつもないアイデアから創られた短編小説集。
さらに引いたカードを四角形の行列で並べて、列の上下から見ていくか、それとも行の左右から読み込んでいくかでそれぞれ別の物語を考える、という凄まじいことをやっています。
なかなか口では説明しづらいので、ぜひ実際に本書を見てみることをオススメします。(詳細な挿絵や図があります)

例えば引いたカードが 『聖杯(ハート)の騎士』→『貨幣(ダイヤ)の王(キング)』→『貨幣のX』→『杖(クラブ)のIX』→『暴力(ストレングス)』の時、〝若い騎士は大貴族の父から莫大な遺産を相続し旅に出た。うっそうとした森に入ったところ、山賊に襲われた〟という風な話が紡ぎだされます。

カルヴィーノは現代的・SF的な科学技術を中世ファンタジーの言葉で美しく描写することにかけて随一の人だと思っていますが、この作品集の短編『吸血鬼の王国の物語』でも、その特長が発揮されてます。  闇のモノを嫌悪するあまり鋼鉄とコンクリートの都市を築いた王。しかし都市の中央にはいまだに自然のままの墓地が残っていて、そこには女王に化けた魔女と吸血鬼が……。  かなり私好みの話でシビれます。似た系統の話で『優柔不断な男の物語』も良いです。

ところで、この作品では『運命の輪』の解釈として〝輪と共に廻る人物たちに生えた獣の耳や尾を見るがよい〟という文章が出てきて、悪魔と契約を交わすと獣の耳が生えるという風な描写がされてます。

普段からネコミミ、ネコミミ言っている人間からするとかなり盲点でしたが、一般的な象徴学では獣耳って悪魔とか天罰とか、そういう意味にとられるものなんでしょうか。考えてみるとミダス王(ロバの耳の王様)がまさにそうですし。

悪魔と通じた者に獣の尻尾が生えるのは良いとしても(人間には無い物なので)、なぜ〝耳〟という発想がでてくるのか、獣耳好きの観点からしても追求すると面白そうなテーマです。(神の声を歪めて聞く、という意味で背信を表しているのかな……)
(06/11/16)

宿命の交わる城 (河出文庫)
宿命の交わる城 (河出文庫)