カテゴリー別アーカイブ: SF

『ドゥームズデイ・ブック』 コニー・ウィリス

上巻まで読んだところではスラップスティックな作品という印象だったのですが、下巻は14世紀も21世紀も状況が一気に深刻になって、泣きそうな気分に。ラストは長い夜が明けたような寂しくも爽やかな気分になりました。

一応、この作品はタイムトラベルSFなのですが、『歴史を変えるようなタイムトラベルはそれ自体が許容されない』 ( タイムトラベルが行われることすら含まれた時間線のみが実在する ) という経路積分的な理論で時間旅行が行われるため、よくあるタイムパラドックスネタは一切ありません。

14世紀の中世イングランドの農村に時間旅行することになった21世紀のオックスフォード大学史学科学生のキヴリンが、そこでさまざまな人々と出会い、馴染み、別れ、苦難の末に戻ってくるというだけのお話。

この物語のテーマは上巻で大学病院の医者メアリが口にしている一言『いつだって、心配したとおりのことは起きない。思いもかけないようなことが起きるのよ』に集約されている感じです。

担当教授のダンワージーは14世紀でキヴリンが疫病にかかるのではないかと死ぬほど心配するのですが、キヴリンを送り出した当日、21世紀のオックスフォード大学の方で強毒性の新型インフルエンザが発生し、危機的状況に陥ってしまいます。以降の話でも、心配している災厄とは異なることばかりが起きます。

思いなおしてみると、この作品中の「親」の立場にある人々はあまり役に立たたず、逆に「子供」の方が危なっかしくもしっかりやっているのが印象的です ( ダンワージーとキヴリン、コリンの母親とコリン、ミセス・ギャドスンとウィリアム ) 。

歴史SFなので、14世紀の描写に見所があるのは確かなんですが、実は私が一番感動したのは21世紀で身を呈してパンデミックを喰い止めようとしたメアリ医師と、その血と心を受け継いでダメな大人たちを叱咤激励するコリン少年の姿だったりします。

後半の14世紀の描写を含めても、この作品はタイムトラベル物というより、アウトブレイク/バイオハザードSFとして読むべきなのかもしれませんね。
(原文2010/12/02)

ドゥームズデイ・ブック(上) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-4) (ハヤカワ文庫SF)
ドゥームズデイ・ブック(上) (ハヤカワ文庫 SF ウ 12-4) (ハヤカワ文庫SF)

『ムジカ・マキーナ』 高野史緒

第6回日本ファンタジーノベル大賞の最終候補作で、実質作者のデビュー作ですね。高野氏の作品はSFマガジンや異形コレクションの短編をいくつか読んではいるのですが、長編を読むのは初めてです。

19世紀の欧州の音楽界の状況を下地にした音楽史改変SFで、この時代に打ち込み音楽が可能だったら、というアイデアを軸に話が進んでいきます。
オーケストラとの不和で、自分のやりたい音楽が表現できないと嘆く若き音楽家フランツ。そこに怪しい英国貴族・セントルークス卿が、楽団無しで音楽を演奏する方法がある、と誘って、フランツを怪しい世界に引きこんできます。深みに嵌ったフランツが最後に見るものとは・・・?

作者のデビュー作だけあって、展開に少し難のある部分もありますが(唐突に判明するマリアの正体とか)、最後の章まで飽きることなく愉しむことができました。

閉鎖的で陰鬱な二章から一転して、開放的で派手な展開になる三章、という流れ自体が、音楽小説らしく協奏曲を模している感じで面白いです。

(原文2010/10/17)

ムジカ・マキーナ (ハヤカワ文庫JA)
ムジカ・マキーナ (ハヤカワ文庫JA)

『Self-Refernce ENGINE』 円城塔

以前、『虚構機関』に収録されていた『パリンプセスト』を読んで結構気に入っていた作者の長編です。

<イベント>という現象が起きて以来、過去も未来も現在もめちゃくちゃになった時間軸の狂った世界で、みんなあまり深刻にならず、わりと楽観的に生きて(?)いる様を描いた作品。

雰囲気としてはカルヴィーノの宇宙ファンタジーの数学版といった感じ。巨大知性体の演算戦争とか数学や情報処理に関する話がたくさんでてくるハードSFかと思いきや、最初と最後の章のせいで、なぜか現代風のボーイ・ミーツ・ガールなお話としてまとまっているのが面白いところ。

この作品のテーマになっている『無限の可能性があるということは、あなたの望む結果は永久に起こらないかもしれない、ことと等しい』 ( 無限のモノの中から、望む一つが見つかる確率は 1/無限≒0 ) という逸話が、かなり心に残っています。

確率≠0%だから、決してあきらめてはいけないと思うべきなのか、確率0%だから、逆にあきらめがついて良い、気持ちを切り替えていけると思うべきか。

人生にも関わる難しい問題です、、、

(原文2010/07/04)

Self-Reference ENGINE
Self-Reference ENGINE

『いっしょに生きよう』(SFマガジン『創刊50周年記念特大号』所収) ジェイムズ・ティプトリー・ジュニア

『たったひとつの冴えたやり方』にも出てきたような、知性をもった異星の共生生物と、惑星探索に訪れた人間たちとの交流を描いたお話。ティプトリー作品にありがちな毒はあまり無くて、素直な希望に溢れたストーリーが展開します。

ちょっとびっくりするのは、この短編の始めの部分が共生生物の一人称で書かれているところ。
「なぜこんな異形の共生生物が人間のような言語能力を持っているのか」というSF的な疑問を、後々の伏線で回収している所なんかは、さすが技巧派という感じです。

これで、この人の作品で読んでいないのはだいぶ少なくなったかな。あるだけの作品を全部読んでしまいたいという欲望はありますが、 ( もう新作がでないから ) 全部読み切ってしまうのは勿体ないという気持ちもあって、なかなか複雑です。

(原文2009/12/13)

S-Fマガジン 2010年 01月号 [雑誌]
S-Fマガジン 2010年 01月号 [雑誌]

『ベガーズ・イン・スペイン』 ナンシー・クレス

ヒューゴー賞・ネビュラ賞をはじめ、たくさんの賞をとっている近未来SF。
表題作は遺伝子改変技術により、睡眠を必要としない子供たちが出現することで社会がどのように変化していくかを描写しています。

眠らなくていいので、遺伝子改良された子供たちは単純に、普通の人間よりも1.5倍くらいの時間を勉強や仕事などの活動に充てることができるわけです(作中ではさらに、睡眠がいらないことによる予想外の+αが示される)。
それによって生じる『有眠人』と『無眠人』の間の不公平は、次第に人種差別のような強烈な対立関係になっていきます。物語自体は、まさに有眠人と無眠人の間で決定的な衝突が起こる寸前の状況で締め。

テーマ自体は昔ながらの新人類モノなのですが、遺伝子改良時のいたずらにより、片方が天才の無眠人、片方が平凡な有眠人となってしまったリーシャとアリスの双子姉妹の関係や、偽善的な匂いのする反共産主義?の新経済理論『ヤガイイズム』の存在など、過去の同テーマ作品よりも、現実的かつ問題点が際立つように描写されています。
子供の遺伝子改良という話が一般化する時代が、私の生きているうちには来るような気がするのですが、そのとき、社会はきちんと対応できるのだろうかと心配になります、、、

他の短編では『ケイシーの帝国』が良かったです。壮大な銀河帝国が失われてしまう話。というか、自分の考えた銀河帝国のスペオペの出版を夢見る作家志望者(高齢フリーター)の話です。あのオチを読むと、空想は空想のままだから良いんだよなあ、としみじみ感じてしまいます。

(原文2009/11/23)

ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)
ベガーズ・イン・スペイン (ハヤカワ文庫SF)

『ロミオとロミオは永遠に』 恩田陸

SFマガジンで連載されていた時は飛び飛びで読んでいた上に、ラスト付近を読んでいなかったので、あらためて手にとってみました。

化学物質と産業廃棄物まみれになった近未来の地球。新しい植民先『新地球』への移住権獲得に失敗した日本人は旧地球に居残って膨大な廃棄物処理に明け暮れています。そんな絶望的な世界で唯一エリートになる道は「大東京学園」の卒業総代になること。
アキラとシゲル、二人の少年は死ぬ思いで「大東京学園」の超難関入試を突破しますが、その先には入試以上に奇妙奇天烈な制度に支配された過酷な学園生活が待ち受けていました。
そんな学生生活に疑問を持ったアキラは、次第に学園を「脱走」することを考え始めますが・・・。

SFのようで、微妙にSF的な展開から外れるというか、いかにも連載小説っぽい行き当たりばったり感が漂っていて、これはこれで軽く読む分には良いと思います。
ラストについて、作者あとがきでも「ハッピーエンドのつもりで描いたはずなのに・・・」的なことが書かれていますが、確かにバッドエンド(天国オチ?)みたいに見えてしまう。こんなモヤモヤする感じで完結したのかと少しビックリ。

それにしても、この作品の設定をきっちり真面目なSFとして描いたらジョン・バーンズ『軌道通信』になるなあと考えたりして。
『軌道通信』、マイナーなSFですが、かなり萌える宇宙世紀思春期女学生小説なのでおススメです。

(原文2009/06/25)

ロミオとロミオは永遠に〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)
ロミオとロミオは永遠に〈上〉 (ハヤカワ文庫JA)

軌道通信 (ハヤカワ文庫SF)
軌道通信 (ハヤカワ文庫SF)

『年間日本SF傑作選 虚構機関』 大森望・日下三蔵編

硬派なハードSFから、これはSF?というようなジャンル不明作品まで、バラエティ豊かな作品が揃っていて、非常に楽しめます。

『パリンプセスト あるいは重ね書きされた八つの物語』(円城 塔)
芥川賞受賞作『アサッテの人』とプロットが似ていたために、お蔵入りになっていたという作品。死んだ曾祖父の残したノートをもとに曾祖父の心情を探る、というところは確かに『アサッテの人』と似ているのですが、『アサッテの人』が文学寄りなのに対して、この『パリンプセスト』はかなり理系寄り。私の中ではこちらの方が評価が高いかも……。
曾祖父のノートに書かれている不思議な情景や物語は、カルヴィーノを思わせるような科学寓話になっていてかなり面白いです。
たとえば、市民全員で毎日決まった法則にしたがって赤い玉を受け取ったり渡したりすることで、都市全体で疑似コンピューターのような計算を行っていたという古代都市の話。この都市は外部の敵?によって偽の赤い玉を流通させられたことで、コンピューターウィルスにやられるがごとく、計算が混乱して滅亡してしまいます。
他には不確定性原理に基づく確率的な波であるはずのガンマ線を「避ける」不死身の生物・紐虫の話とか、ある数式群にそって作られた図形を見ると強制的に涙が出てしまう「涙方程式」の話など、素晴らしい奇想の数々に感動させられました。
全エピソードにわたって、あきらめにも似た寂寥感が漂っているところも良い感じ。

『バースデイ・ケーキ』(萩尾望都)
SF漫画です。火星土産のバースデイ・ケーキは、実は何かの生物の卵。そこから産まれた生物が育ってきて、人間の女の子みたいになって、ついには……というお話。どっかのエロゲに普通にありそうな話ですが、実は微妙にエイリアン侵略テーマの話になっているところが流石。

『ダース考 着ぐるみフォビア』(岸本佐知子)
「ダース・ベイダーも夜は寝るのだろうか」という一文から始まるエッセイ。
ダース・ベイダーは執務を終えて自室に下がった後は何を考えているのだろうか、という考察で、ギャグのように見えますが、けっこう文学的な問題提起になっています。こういうのは今までに見たことが無いかも。
作品設定をもとに登場人物の私生活を考察するというマニア的な話ではなく、ダース・ベイダーという私生活が想像しにくい特殊な人物を通して、平凡な私たちが当然のように持っている「ぼんやりと心をさまよわせる時間」の存在に気づかせてくれます。

『いくさ 公転 星座から見た地球』(福永 信)
本アンソロジーの中随一のジャンル不明作品。
A、B、C、Dという人物が登場する三つのエピソードからなります。
ストーリー自体を楽しむというより、A、B、C、Dの正体と、エピソードごとにどうして彼らの描写が異なっているのかを考えることが楽しい作品かもしれません。
A、B、C、Dはたぶん小学生か、それに近い環境で生活している存在で、Bだけは女の子。
彼らの名前は頭文字で、AはAir、CはChalk、DはDogらしいことはわかるのですが、Bが何なのかがはっきりしない。「Bが得意なのは運動」「とても素敵な歌だと思う。単調なリズムしか刻むことのできない自分が~」という文章と、小学校にありそうなもの、というヒントから考察するとブランコ(Blanco)かなあとも思うのですが、、、

『The Indifference Engine』(伊藤計劃)
宗教そのものが悪いのではなくその集団化が問題、というユングの見解にほぼ同意している私なのですが、この作品ではそれに近い問題をあらわしたような構図が描かれます。
互いに不倶戴天だと信じ切っていた民族対立による内戦がようやく終わったのに、今度は、内戦を続行するべきだという集団と、好戦的な彼らを排除して平和に暮らすべきだという集団に分かれて争いが繰り返される。
内戦続行派の中では、両民族の好戦派が協力しているという皮肉。
どんなに矛盾を抱えていようと、一つの思想のもとに集団ができてしまえば、他集団との戦争が繰り返されるわけで、現在起こっている様々な紛争も根っこはこんな感じなんだろうなあと思うとイヤ~な気分になってしまいます。

虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)
虚構機関―年刊日本SF傑作選 (創元SF文庫)

『渦動破壊者』 E・E・スミス

超有名古典SF『レンズマン』シリーズの外伝ですが、私は本編よりこっちの方が好みかも。

宇宙時代の新種の災害「原子渦動」(地表に裸の原子炉が生まれるような状態)を破壊・滅消することのできる唯一の人物、核物理学者ニール・クラウドと、その仲間たちの活躍を描いた連作短編です。

ひとりでなんでもできちゃうレンズマンとは違って、“ストーム”クラウドは超演算能力以外の力が限定されているので、彼を支えるクセのある仲間たちの魅力が際立っています。ディレイニー『ノヴァ』と似ていて、純粋な戦士より文化人っぽい仲間が多いのも良い感じ。

仲間の一人、猫型異星人ヴェギアの娘ヴェスタがもうホントに可愛すぎてダメです。50以上の言語を操る知性と、強気で血気盛んな性格に、若さからくるウカツなドジっ子属性と、たまに見せるゴロニャンとした甘えの仕草があいまって絶品の猫娘に仕上がっています。

さて、この作品の最大の不満は、後半部でクラウドが新恋人のジョーンを作っちゃうところ。クラウドは原子渦動事故で失った妻子の復讐に冷たく燃えている感じがカッコよかったのに!
スペオペ的にはヒーローのラブロマンスがないと物足りないのかもしれませんが、私の中ではジョーンはいらない子、、、

渦動破壊者 レンズマン・シリーズ
渦動破壊者 レンズマン・シリーズ

『どろぼう熊の惑星』 R・A・ラファティ

一年に一回くらい、ヘンなSF短編が無性に読みたくなる時期があって、ラファティの短編はそういう症状の時に最適です。科学的整合性とかそういうのを抜きにした奇想というか、サイエンスじゃないけどSF、みたいな、そういう短編。
星新一のショートショートにもラファティ作品と同様の薬効があります。

この短編集で一番印象的だったのは『このすばらしい死骸』。
超高性能のコンピューターが人間に反乱するという、ありふれたフランケンシュタイン・コンプレックスの構図をとてつもなくヘンな形に捻じ曲げてあって、『あれ? このコンピューターってフランケンシュタインの怪物じゃなくて×××××だったのか』と妙に納得させられるオチがついています。
変わったSFを求めている人はぜひ一読を。

どろぼう熊の惑星 (ハヤカワ文庫SF)
どろぼう熊の惑星 (ハヤカワ文庫SF)

『銀河パトロール隊』 E・E・スミス

さすがスペースオペラの古典だけあって『あのネタってこれが元ネタだったのか』という描写やガジェットが多数見つかり、それを探すだけでも愉しかったです。(例えばパソコンSLG『シュヴァルツシルト』シリーズの超弩級戦艦の型番が〝Q〟なのはQ砲艦を元にしていたのかー、とか)

自分が一番興奮したのは最初のQ砲を使った艦隊戦のシーンですね。スペオペは意外と戦闘描写をおざなりにしちゃったり、地球上の古典的な戦争と似たような描写でごまかされたりするんですが、この作品はSF的超兵器による戦闘の醍醐味をふんだんに見せてくれます。

逆に苦手だなあと思ったのは主人公のキニスン。この作品に限らずヒーロー物全てに共通することですが、とてつもない力を持ちすぎている超人には感情移入しにくい・・・・・・。
どちらかというと敵首領のヘルマスの方に魅力を感じてしまいました。翻訳の良さなのかもしれませんが(翻訳は小隅 黎氏)、喋り方が非常にスマートでカッコいいです。

銀河パトロール隊 レンズマン・シリーズ
銀河パトロール隊 レンズマン・シリーズ